変わる二次評論:高次の思考力を問う問題へと移行する国立二次

★21世紀型資質・能力(コンピテンシー)に対応する評論(随筆を含む)の記述問題★

 現行のセンター入試が廃止された後、新たに実施予定の大学入学「共通テスト」(仮称)のサンプル問題が、平成29年度5月、続いて秋には二回目が実施されました。国語の問題としての質・量ともに思考力を問う記述問題として完成度が低く、今後、まだまだ実施までに紆余曲折ありそうです。

 現在の高校生(1~3年生)諸君にはまだまだ無縁な話のように思えます。しかし、国公立を中心にした二次試験問題は2016年あたりを境に従来の部分的な解釈を中心にした設問構成から、21世紀型の資質・能力(コンピテンシー)を測るために、演繹的な推論(スキーマでいえば、トップダウン的な情報処理)がより必要な批判的かつ汎用的な思考力を問う問題へと移行してきています。

 この変化を十分に理解して問題に臨まないと、作問者の問いの意図や趣旨が分からずに従来通りの傍線部の前後の部分的な解釈で済ませてしまうといった誤った方向で解答しがちです。今年度、特に全国展開の大手予備校が不十分で的外れな正解案しか出せていない現状も、新しいタイプの問題における設問の趣旨や意図が理解できていないからです。

★下の図2枚は、数年前にある出版社の国語編集者に新しい傾向のテスト問題に関する講義を行った際に用いたプレゼン資料です。
 
 これまでの入試問題や民間会社実施の模擬試験など従来型の問題が主に問題文の部分的な解釈問題中心であった(図中では、タイプ①とタイプ②)のですが、今後は高次の論理的思考力(国際学力調査、いわゆるPISAにおけるテスト分類では「熟考・評価」型問題で測定する学力のことです)の測定問題(図中では、タイプ③)に変わっていくことを、国語編集者に図的に理解してもらうために作成したものです。


 次に、28年度から29年度にかけて顕著だった設問パターンを三つに大きく分類してみます。

① パラドックス的な表現など与えられた情報によって「主張と根拠」という論理構造を明らかにするといった、主に論理的な思考の力を測る問題

② 問題文の情報に自らの既有の知識・理解を統合して本文の内容を評価するといった、主に批判的な思考の力を測る問題

③ 問題文全体の論理構造を演繹的な推論によって明らかにしたり、本文の情報を用いて自らが妥当な論理を組み立てたりするといった、主に汎用的な思考の力を測る問題

 以上、①/②/③に分類した代表的な設問を昨年度・今年度の入試問題からいくつか取り上げます。これらの設問の意図や趣旨を確認していきましょう。

コラム:評論文で求めるのは、論理(情報と情報の関係性)を構造化する力

★ほぼ二分される二次の評論問題(ひとまず、国公立や旧帝大系の二次評論を例にして)

 本年度、大学入試センターから公表された共通テストのサンプル問題(現代文)は、記述式もマーク式も複数の素材を用いて論理を構造化(論理的思考力)する力の測定を主な狙いとしています。

 ここでいう「論理」とは素材に示された「複数の情報の関係性」を表していますが、複数の情報の関係から素材文の語る論理を構造化していくという点では国公立二次試験の現代文の同じです。

 ただ、昨年度や今年度の評論問題の傾向を振り返ると、現代文読解における「論理の構造化」は大きく二つに分けられるようになってきました。

①従来型の問題
 ひとつは、言語表現として素材文の中に明らかに示されている言語情報相互の関係性(これは二項対立の価値体系軸が基本です)を読み取って、全体の論理を構造化して完結する従来型の問題です。

 旧帝大系の問題を例にすれば、昨年度や今年度の北海道大学名古屋大学九州大学などの評論問題がこのタイプの問題です。

②新傾向の問題
 もうひとつは、素材文が与える言語情報に対して受験者自身がもつ既有の情報(政治、経済、文化など多岐にわたる分野に関する知識)を統合することで二項対立の価値体系軸を完成させながら、設問が要求する論理へと構造化(これを「推論による論理の構造化」と呼ぶ人もいます)を発展させていく問題です。
 
 この新しいタイプの問題は、従来型より高次な思考力(創造的・発展的な思考力)を測定しようとする意図があります。東北大学大阪大学は昨年度からこのタイプの問題を大問一の最終設問として出題しており、京都大学の随筆や東京大学の評論問題も今年度あたりからこの傾向が出てきています。

★今後について
 既に、文科省が高大接続改革の一環として高次の思考力を問う問題を二次試験に求めていますから、今後、こういった新たなタイプの評論問題が増えていくと予想されます。

 したがって、高校生の皆さんは、名古屋大学などの従来型の問題を解くことで「論理の構造化」に慣れていき、そののちに大阪大学や京都大学ような新しいタイプの問題に習熟していくのも、現代文の学習のやり方として良いと思います。

① パラドックス的表現や論理の組み立てを通し、主に「論理的な思考力」を測る問題

「真理に反するような結論など一見すると矛盾した論理の表現や主張であるにも関わらず、実際には(筆者の考えに従えば)真理を述べている」のがいわゆるパラドックス(逆説)です。

 一見すると矛盾した論理に見えるパラドックス的な表現での筆者の主張がいかに正しいものであるか、その理由や根拠を筆者の考えに沿って理解していく設問が、今年度は旧帝大系を中心の国立大学で目立ちました。高校生の苦手とする問題となりますから、受験生の論理的思考の力のレベルを測るにはまさにうってつけの設問となります。

●28年度九州大学 (文系全学部)大問一の小問6
 人間の行為の結果が「結果を予見できないことが、結果を予見できるという思い込みを強める」というパラドックスを説明させる設問です。

●29年度 東北大学 (文系共通)「大問一」の小問(四)
 「『様式化』された絵画ほど『写実的』な表現である」というパラドックス的な表現でのエジプト壁画の特質を説明させる設問です。

●29年度京都大学 (文理共通)大問一の小問(五)
「不調和な部外者こそ、調和的な世界の内部が理解できる」というパラドックス的な発想を根拠とした理由説明を求める設問です。

●29年度東京大学 第一問(評論)の小問(二)
 「科学技術が人間の営みから『離れている(ニュートラル)』が故に、人間の営みと『密接に関わる(アン・ニュートラル)』のだ」というパラドックス的な表現の内容を説明させる設問です。

② 既有の知識を問題文の内容に統合して評価させ、主に「批判的な思考力」を測る問題

 問題文に明示された情報に解答者自らの既有の知識やその理解を統合しながら、本文の内容を評価したり新たに妥当な論理を展開したりする問題です。

 作問者の狙いは、本文に示された情報を従来のテストのように解釈したり分析したりするだけではなく、受験生自らが既有の知識を反映させながら批判的思考(クリティカル・シンキング)力をどれだけを発揮できるかにあります。

 平成28年度大阪大学二次評論大問Ⅰの小問四は、まさにそのような問題の典型といえます。

 最終段落における「政治権力」の意味、つまり「政治権力」をもった為政者は一般大衆から見れば「卓越者」であるという視点を解答者が持たない限り、妥当な答を導けない設問です。  そういう視点から「権力資源」「圧倒的な覇権」の関係性や意味が初めて見えてくるのです。

③其の1 演繹的な推論で全体の論理構造を明らかにさせ、主に「汎用的な思考力」を測る設問

 演繹的な推論とは、一般的な原理や法則から具体的な個別のものを推論していく過程のことです。

 評論など論理性が高い、まとまりのある文章の一般的な論理構造を「枠組み的な知識(スキーマ)」として事前に理解し、それを踏まえて個々の評論問題の論理構造の特徴を推論していくということになります。

 このような演繹的な推論の力は、批判的・創造的・汎用的な思考力を測る問題に対応するために、今後ますます求められるものとなっていきます。

●平成29年度大阪大学二次評論大問Ⅰの小問二(普通は最後に問われる全体問題が、今年度は小問二で問われています)
 物質的世界における効率重視の社会が人間に無常なニヒリズムをもたらしているという話から始まっています。  ところが、その無常性(ニヒリズム)を徹底することがかえって人間が失ったポジティブな精神を取り戻す契機になるのだという、かなり逆説的な発想の転換もうかがえる設問でした。

 つまり、「精神世界(形而上)VS物質世界(形而下)」という軸と、事象の状態を示す「安定VS不安定」という軸との二つの軸を演繹的な視点にして文章全体を俯瞰してこそ、正しい答が導けるのです。

●29年度東京大学 第一問(評論)の小問(四)
 人間が虚構の中で生きているという筆者が、「有限性」の中ではなかなか気づかれなかった倫理的な概念や神話の虚構性が、科学技術(テクノロジー)の無限の発達という「無限性」をもつものの出現によって露わになったと述べています。ですから、「有限性VS無限性」という軸を想定した上で「人間VS科学技術」の関係性を俯瞰的に捉えないと十分な答は導けないのです。

③其の2 本文の情報を用いて妥当な論理を組み立てさせ、主に「汎用的な思考力」を測る設問

 本文中では論理的な構造を明らかにせず、個々の情報として示された語句を設問の意図に合わせて妥当な論理として受験生自らが構築していく力(汎用的な思考の力)を測る問題です。

●平成29年度東京大学二次国語大問四(随筆)の小問(四)

 
●平成29年度京都大学二次国語大問一(随筆)の小問(三)
 この問題はどのような答を導き出せばよいか、または求められているのか、多くの受験生が戸惑いを覚えてしまいました。それは予備校も同様で、K・T・Sなど全国展開の予備校が互いに大きく異なる解答案を提示し、その大半が傍線部(3)やその前後の文章を解釈しただけの不十分な正答案ばかりでした。

 正しくは、農夫と筆者の言葉のやり取りにうかがえる対比的な構造(柿をめぐる「都会人の論理VS村人の論理」の違い)に着目して、正解を作成することになります。